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福岡高等裁判所 昭和50年(ネ)71号 判決 1977年3月04日

控訴人

永井良一

右訴訟代理人

庄野孝利

被控訴人

地域振興整備公団

(変更前の名称工業再配置・産炭地域振興公団)

右代表者総裁

平田敬一郎

右法令上の代理人

麻田四郎

被控訴人

株式会社協和銀行

右代表者

色部義明

右両名訴訟代理人

中村健太郎

外一名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

原判決主文第一項は、請求の趣旨の減縮により、「控訴人は、被控訴人地域振興整備公団に対し、金六一一万三、三八八円及び金六二六万五、六四八円に対する昭和四一年一一月二六日から同四八年一二月二四日までの、うち金五六二万五、〇三八円に対する同月二五日から同四九年一二月二四日までの、うち金五〇〇万五、一五五円に対する同月二五日から完済に至るまでの、いずれも日歩金四銭の割合による金員を、被控訴人株式会社協和銀行に対し、金九六万四、一六〇円及び金一五二万九、〇二〇円に対する昭和四一年一一月二六日から同四八年一二月二四日までの、うち金一二四万一、九〇一円に対する同月二五日から同四九年一二月二四日までの、うち金九六万、四、一六〇円に対する同月二五日から完済に至るまでの、いずれも日歩金四銭の割合による金員を、それぞれ支払え。」と変更された。

事実

(申立て)

一、控訴人

原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

被控訴人らの請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

との判決

二、被控訴人ら

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

との判決(主文第三項のとおり請求の趣旨を減縮)

(主張)

一、請求原因

1  被控訴人地域振興整備公団(以下、被控訴公団という。)と被控訴人株式会社協和銀行(以下、被控訴銀行という。)との代理業務契約

被控訴公団(当時の名称は、産炭地域振興事業団)は、昭和三七年一二月二一日被控訴銀行との間で、被控訴公団が産炭地域振興事業団法に基づいて行う資金の貸付け、貸付金の管理回収その他について「代理業務契約」と称する契約を締結し、被控訴公団は、貸付業務を被控訴銀行に委託し、同時に、同銀行は、その代理して行う貸付金の二割について保証責任を負い、代理業務にかかる貸付金の最終期限の到来時(期限の利益喪失による履行期到来の場合はその到来時)に主債務者が元利金の支払を怠つた時は、同銀行において未払の元本、利息及び遅延損害金の二割相当額を限度としてこれを被控訴公団に代位弁済することを約した。

2  被控訴銀行の代理貸付けと控訴人の連帯保証

(一) 被控訴銀行(八幡支店所管)は、右代理業務契約に基づき、被控訴公団を代理して昭和三八年三月二二日、訴外鞍手モウルド株式会社(当時の名称は、九州モウルド工業株式会社。以下、訴外会社という。)に対し、金一、五〇〇万円を次の約束で貸し渡した。

(1) 利率 年六分五厘

(2) 利息の支払方法 昭和三八年四月末日を第一回とし、以後毎月末日に、一年を三六五日の日割計算によつて算出した金額を支払うこと。

(3) 元本の償還最終期限 昭和四三年五月末日

(4) 元本の償還方法 昭和三八年六月末日を第一回とし、以後毎月末日金二五万円づつに分割して償還し、右償還最終期限に完済すること。

(5) 元本若しくは利息の支払を怠つた場合の遅延損害金日歩金四銭

(6) 特約 訴外会社が右元本の償還及び利息の支払を一回でも怠つた場合には、債権者の通告により残額を一時に請求することができる。

(二) 控訴人は被控訴公団に対し、同日主債務者たる訴外会社と連帯して右債務の保証をした。

3  求償債務に対する控訴人の連帯保証(求償債権の保証契約)

訴外会社は、昭和三八年三月二二日被控訴銀行との間で、同銀行が前記1の代理業務契約により、被控訴公団に対し右2の債務を将来代位弁済した場合には、その求償債務に対し、その時から日歩金四銭の割合による遅延損害金を付して支払うことを約し、控訴人はこれについても同日被控訴銀行に対し、訴外会社と連帯して保証することを約した。

4  求償債権の発生及び債権の特定

(一) 訴外会社の債務不履行

訴外会社は、前記2(一)の借入金に対し、昭和三八年八月までの割賦弁済は行つたが(三回分の元本分割償還金七五万円)、同年九月分以後の元本の償還金及び利息の支払をしなかつたので、被控訴銀行は、前記2(一)(6)の特約に基づいて被控訴公団のために同年一二月一〇日到達の書面で訴外会社に対し通告をしたから、同日貸金残額金一、四二五万円について履行期が到来した。

(二) 担保処分による弁済充当

被控訴公団は、昭和三九年四月二三日担保処分による金二八五万円を元本債権に充当したので、後記4(三)の代位弁済前の本件貸付金の元本、利息及び遅延損害金債権は左記のとおりとなつた(遅延損害金については、右代位弁済当日分についても代位弁済の対象となつているので、右当日分を含む。)。

(1) 元本 金一、一四〇万円

(2) 利息 金二五万〇、九一六円

(算出根拠は、原判決添付の計算書2のとおりである。)

(3) 遅延損害金

金一三二万四、二四〇円

(昭和三九年七月一五日までに発生した遅延損害金一一六万〇、〇八〇円(右計算書4(三))と同月一六日から同年八月二〇日までの間に発生した遅延損害金一六万四、一六〇円(右計算書5(三))を加算したもの)

(三) 被控訴銀行の代位弁済

これに対し、被控訴銀行は、昭和三九年八月二〇日前記1の代理業務契約に基づき被控訴公団に対して左記のとおり代位弁済し、訴外会社に対し合計金二三八万五、八五八円の求償債権を有するに至つた。

(1) 元本 金二二八万円

(2) 利息 金五万〇、一八三円

(被控訴銀行が利息分として支払つた金額は金九万五、八二二円であるが、前記3の連帯保証契約により、右弁済額のうち前記4(二)(2)の利息額の二割に相当する金五万〇、一八三円についてのみ控訴人は連帯保証人としての責任がある。)

(3) 遅延損害金 五万五、六七五円

(四) 右代位弁済後の被控訴公団の有する債権額

右代位弁済により被控訴公団の訴外会社に対する貸付金の元本、利息及び遅延損害金は、左記のとおりとなつた。

(1) 元本 金九一二万円

(前記4(二)(1)の元本額から前記4(三)(1)の代位弁済額を控除したもの)

(2) 利息 金一五万五、〇九四円

(前記4(二)(2)の利息額から前記4(三)(2)の代位弁済額金九万五、八二二円を控除したもの)

(3) 遅延損害金

金一二六万八、五六五円

(前記4(二)(3)の遅延損害金額から前記4(三)(3)の代位弁済額を控除したもの)

(五) 昭和三九年八月二五日現在被控訴公団の訴外会社に対して有する債権額

(1) 元本 金九一二万円

(2) 利息 金一五万五、〇九四円

(3) 遅延損害金

金一二八万三、一五七円

(前記4(四)(3)の遅延損害金に昭和三九年八月二一日から同月二四日までの遅延損害金一万四、五九二円を加えたもの)

(六) 訴外会社の会社更生手続と被控訴人らの参加

福岡地方裁判所において昭和三九年七月一六日訴外会社に対する更生手続開始決定があり、被控訴人らは、同年八月二五日更生会社である訴外会社に対する左記債権を更生担保権として(被控訴公団は同年九月三日予備的に更生債権としても)届け出た(届出の内訳は、原判決添付の届出債権表Ⅰ、Ⅱのとおりである。一部考え違いがあり、前記4(三)及び(五)とは若干異なる金額が届け出られている。)。

(1) 被控訴公団

計金一、一三〇万四、四八五円

(イ) 本件貸金債権の残元本

金九一二万円

(ロ) 右に対する昭和三九年七月一五日までの利息及び遅延損害金

金一九二万七、四七一円

(ハ) 右(ロ)以後昭和三九年八月二四日までの利息及び遅延損害金

金二五万七、〇一四円

(2) 被控訴銀行

計金八二一万五、二七九円

(イ) 本件求償債権

金二四三万一、四九七円

(ロ) 本件外の別口手形貸付金債権金五〇〇万円の残元本

金四八九万五、四〇四円

(ハ) 右(ロ)に対する利息等

金八八万八、三七八円

(七) 更生債権、更生担保権の確定及び債権表への記載

被控訴人らが更生担保権として届け出た前記4(六)の債権は、昭和三九年九月二五日の債権調査期日及び後記(2)の和解を経て次のとおり確定し、この確定した更生債権及び更生担保権は、更生債権者表及び更生担保権者表にそれぞれ記載された。

(1) 被控訴公団

計金一、一三〇万四、四八五円

(イ) 更生担保権(本件元本の一部)

金三二七万八、六二三円

(ロ) 更生債権(本件元本の残部)

金五八四万一、三七七円

(ハ) 同(利息及び遅延損害金。前記4(六)(1)(ロ)に同じ。)

金一九二万七、四七一円

(ニ) 同(利息及び遅延損害金。前記4(六)(1)(ハ)に同じ。)

金二五万七、〇一四円(劣後債権)

右(イ)ないし(ニ)は、主位的に更生担保権、予備的に更生債権として届け出られたものであるが、昭和三九年九月二五日の債権等調査期日において、管財人から、更生担保権届出のうち右(ロ)ないし(ニ)について異議、更生債権届出のうち右(イ)について異議が述べられ、右(イ)ないし(ニ)のとおり確定したものである。ちなみに、異議の理由は、右(ロ)ないし(ニ)が担保権の目的の価額を超えるので、更生債権として届け出るべきものであり、右(イ)は更生担保権として認められるから更生債権として届け出たのは失当であるという趣旨のものであつた。

(2) 被控訴銀行

計金八二一万五、二七九円

(イ) 更生担保権(前記4(六)(2)(イ)、(ロ)の一部。確定分)

金一〇二万四、五九六円

(ロ) 更生債権(前記4(六)(2)(イ)、(ロ)の残部。異議撤回分)

金六三〇万二、三〇五円

(ハ) 同(利息等。前記(六)(2)(ハ)に同じ。異議撤回分)

金八八万八、三七八円

右(ロ)、(ハ)の合計金七一九万〇、六八三円に対しては、担保権の目的の価額を超えるから一般更生債権となるとの理由で管財人の異議があり、これにつき更生担保権確定訴訟を被控訴銀行が提起し、和解により、右異議分の六割相当額を一般更生債権と同じ権利の変更並びに弁済方法で処理し、異議は撤回することで確定をみたものである。

(八) 更生計画認可決定及び訴外会社の一部弁済

更生計画認可決定(昭和四一年一一月一九日決定、同年一二月二〇日確定)により、被控訴人らの権利は、更生計画の定めに従い次のとおり変更され、弁済を受けた。

(1) 被控訴公団

前記4(七)(1)(ロ)ないし(ニ)の更生債権合計金八〇二万五、八六二円のうち金六八六万〇、五三四円(前記4(七)(1)(ニ)全額を含む。)は免除され、残額金一一六万五、三二八円については認可決定の日から六〇日後に支払を受け、前記4(七)(1)(イ)の更生担保権金三二七万八、六二三円については原判決添付の弁済計画表Aのとおり分割弁済することが定められ、右計画どおり弁済を受けた(ただし、第八、第九回分の弁済期日は昭和四八年及び同四九年の各一二月二四日である。)。

(2) 被控訴銀行

被控訴銀行と管財人との間の更生担保権確定訴訟において、和解の結果、更生計画において管財人は更生担保権として届け出られた金八二一万五、二七九円全額を認め、うち金三六六万七、二四八円は免除され、うち金六四万七、一六二円については更生計画認可決定の日から六〇日後に支払を受け、残額金三九〇万〇、八六九円については原判決添付の弁済計画表Bのとおり分割弁済することが定められ、右計画どおりの弁済を受けた(ただし、第八、第九回分の弁済期日は昭和四八年及び同四九年の各一二月二四日である。)。

(3) 本件更生手続は、昭和四五年三月二〇日終結した。

(九) 被控訴人らが現に控訴人に対して有する債権額

したがつて、被控訴人らは、前記2(ニ)及び3の各連帯保証契約により、訴外会社の連帯保証人である控訴人に対し、次の各債権を有していることになる。

(1) 被控訴公団

計金六一一万四、三〇〇円

(イ) 元本(更生担保権)なし

原判決添付の弁済計画表Aの第八、第九回分の弁済前の元本(更生担保権分)の残額は、金一二六万〇、四九三円であつた。)

(ロ) 元本(更生債権)

金四九六万五、一七〇円

(前記4(七)(1)(ロ)の元本金五八四万一、三七七円に対し、金八七万六、二〇七円(前記4(八)(1)の金一一六万五、三二八円のうち元本に充当された金額である。)の支払を受けたので、残額は右のとおりとなる。)

(ハ) 利息(同) 金三万九、九八五円前記4(五)(2)の利息金一五万五、〇九四円に対し、金一一万五、一〇九円(前記4(八)(1)の金一一六万五、三二八円のうち利息に充当された金額である。)の支払を受けたので、残額は右のとおりとなる。)

(ニ) 遅延損害金(同)

金一一〇万九、一四五円

(昭和三九年八月二四日までに発生したもの。前記4(五)(3)の遅延損害金一二八万三、一五七円に対し、金一七万四、〇一二円(前記4(八)(1)の金一一六万五、三二八円のうち遅延損害金に充当された金額である。)の支払を受けたので、残額は右のとおりとなる。)

(2) 被控訴銀行

計金一〇三万九、七六六円

(イ) 本件求償債権(免除されなかつたもの)なし

(原判決添付の弁済計画表Bの第一ないし第七回分の弁済はすべて別口の手形貸付金債権に充当されているので、右計画表の第八、第九回分の弁済前の本件求償債権(免除されなかつたもの)の額は、金一三四万六、〇九二円であつた。その詳細は、原判決添付の計算書7のとおりである。)

(ロ) 同(免除されたもの)

金一〇三万九、七六六円

原判決添付の計算書9(一)(3)の金一〇八万五、四〇五円から控訴人の保証の範囲に属さない利息の支払分金四万五、六三九円(前記4(三)(2)の金九万五、八二二円から金五万〇、一八三円を控除した残額である。)を控除すると、残額は右のとおりとなる。)

5  要約

よつて、控訴人に対し、

(一) 被控訴公団は、前記2(ニ)の連帯保証契約により、前記4(九)(1)の金六一一万四、三〇〇円のうち金六一一万三、三八八円(前記4(九)(1)(ニ)についてはうち金一一〇万八、二三三円を請求する。)並びに前記4(九)(1)(イ)のかつこ書きの金一二六万〇、四九三円、同(ロ)の金四九六万五、一七〇円及び同(ハ)の金三万九、九八五円の合計金六二六万五、六四八円に対する弁済期の後である昭和四一年一一月二六日から原判決添付の弁済計画表Aの第八回分の弁済日の同四八年一二月二四日までの、うち金五六二万五、〇三八円(右金六二六万五、六四八円から弁済を受けた右第八回分を控除した残額である。)に対する右第八回分の弁済日の翌日である昭和四八年一二月二五日から原判決添付の弁済計画表Aの第九回分の弁済日の同四九年一二月二四日までの、うち金五〇〇万五、一五五円(右金五六二万五、〇三八円から弁済を受けた右第九回分を控除した金額である。)に対する右第九回分の弁済日の翌日である昭和四九年一二月二五日から完済に至るまでの、いずれも日歩金四銭の割合による約定遅延損害金

(二) 被控訴銀行は、前記3の連帯保証契約により、前記4(九)(2)の金一〇三万九、七六六円のうち金九六万四、一六〇円並びに前記4(九)(2)(イ)のかつこ書きの金一三四万六、〇九二円及び同(ロ)の金一〇三万九、七六六円の合計金二三八万五、八五八円のうち金一五二万九、〇二〇円に対する弁済期の後である昭和四一年一一月二六日から原判決添付の弁済計画表Bの第八回分の弁済日の同四八年一二月二四日までの、うち金一二四万一、九〇一円(右金一五二万九、〇二〇円から弁済をうけた右第八回分を控除した金額である。)に対する右第八回分の弁済日の翌日である昭和四八年一二月二五日から原判決添付の弁済計画表Bの第九回分の弁済日の同四九年一二月二四日までの、うち金九六万四、一六〇円(右金一二四万一、九〇一円から弁済を受けた右第九回分を控除した金額である。)に対する右第九回分の弁済日の翌日である昭和四九年一二月二五日から完済に至るまでの、いずれも日歩金四銭の割合による約定遅延損害金

の各支払を求める。

二、請求原因に対する認否

全部認める。

三、抗弁

1  被控訴公団による保証債務の免除

(一) 訴外会社は、昭和三七年四月産炭地域振興事業団法に基づき、当時不況下にあつた産炭地域の疲弊を救済するために設立されたが、同三八年九月ころには、被控訴人らに対する負債の他に、日本開発銀行に対し借入元金五、〇〇〇万円及びその他小口の負債合計金五、〇〇〇万円程度があり、訴外会社取締役会では再建は困難で清算以外に方法はないという結論に達したところ、日本開発銀行と被控訴公団は、同公団と訴外越智敏也、那須長次及び控訴人三名との間に締結されている請求原因2(二)の連帯保証契約上の責任は一切追及しないから、会社更生法により再建してほしい旨を申し入れた。

(二) 訴外会社の取締役でもある控訴人ら三名は、右申入れに応じ会社更生手続開始の申立てをし、以後被控訴人ら主張のとおり、訴外会社に対する更生手続が開始され、同四一年一一月一九日には会社更生計画案は認可決定され、その後計画条項は逐次履行された。

よつて、控訴人の被控訴公団に対する連帯保証債務は免除されたものである。

2  更生計画による免除

(一) 訴外会社の確定した更生計画によれば、被控訴人らの更生担保権及び更生債権についての更生手続開始以後の利息、遅延損害金及び請求原因4(八)(1)(2)において被控訴人らが自認する更生担保権、更生債権の各免除が定まつた。

(二) これによつて、被控訴人らは訴外会社に対する右各債権を放棄し、若しくは債務を免除したから、保証人である控訴人も、この範囲で債務を免れたものである。

3  消滅時効

(一) 本件保証債務の消滅時効の起算日は、請求原因4(一)により履行期が到来した昭和三八年一二月一〇日である。被控訴人らの本訴提起は右の日から五年を経過した後であるから、控訴人は本訴において右時効を援用する。

(二) 仮に右主張が認められないとしても、本件債権中更生計画によつて免除された被控訴人らの債権については、届出をしなかつたものと同一に帰すると解されるから、右債権については会社更生法第五条による時効中断の効力は認められない。したがつて、更生計画によつて免除された債権の消滅時効の起算日は、前記昭和三八年一二月一〇日に求めるのが相当である。

(三) 仮に右主張が認められないとしても、更生計画によつて免除された債権については、その更生計画認可決定の日に消滅時効の中断事由が終了するものと解すべきであり、右債権は、右認可決定の日である昭和四一年一一月一九日から五年の経過によつて消滅するので、控訴人は右時効を援用する。

4  弁済

控訴人は、昭和四二年二月末ころ訴外会社の更生管財人三木善吉を使者として、被控訴銀行に対し金二〇〇万円を弁済した。

5  共同保証人の負担部分による減額

控訴人は、訴外会社の債務について被控訴公団のために保証したが、この保証債務のうちの二割相当額については被控訴銀行と控訴人とが共同して保証していたものである。そして、両保証人間には、その負担部分について特に差異を認めるべき事情はないから、両者の負担割合は相等しきものと推定される。よつて、同銀行の代位弁済のうち二分の一に相当する部分のみが控訴人に対して求償できるにすぎない。

四、抗弁に対する認否

1  被控訴公団

抗弁1中、訴外会社が倒産して福岡地方裁判所に対し会社更生の申立てをし、昭和四一年一一月一九日更生計画認可決定があつたこと、右計画に基づき履行されたことは認めるが、控訴人を含めた連帯保証人全員に対し、連帯保証債務を免除する旨の意思表示をした点は否認する。被控訴人らが控訴人らと連帯保証契約を締結したのは主債務者の倒産その他債務の履行の困難となつた場合に備えて、その回収を期した担保的方法としてであり、被控訴公団は政府の財政投融資金をもつて融資したのであり、その責任は重く、控訴人のいうような自らの債権回収を危殆ならしめる免除を軽々しくなすはずがない。

2  被控訴人ら

抗弁2は更生計画の内容を除き争う。

本件更生計画における債務免除は、私法上の債務免除と異なり、会社更生法第二四二条第一項に基づく権利の変更であり、同法第二四〇条第二項により、保証債務の附従性の例外をなし、保証人の保証債務には何らの影響を及ぼさない。

3  被控訴人ら

抗弁3は争う。

(一) 消滅時効の起算日は、本件更生計画認可決定が確定した日である昭和四一年一二月二〇日と解すべきである。

(二) 会社更生手続における債権届出は、届出全額について時効中断の効力を有し、更生計画認可による免除額について債権届出の効力が遡及的に失われるということはない。届け出た債権については前記のとおり昭和四一年一二月二〇日まで時効が中断し、本訴提起は昭和四六年一一月二五日であるから、控訴人の消滅時効の抗弁は失当である。

4  被控訴銀行

抗弁4は否認する。

5  被控訴銀行

抗弁5は争う。

控訴人が被控訴公団及び被控訴銀行に対してなした二つの連帯保証は、その目的、態様、当事者関係において全く別個のものであつて、控訴人がいうところの保証人間の負担部分に関する法条の適用の余地はない。

(証拠関係)<略>

理由

第一現存債権の判断

請求原因事実は、すべて当事者間に争いがない。

右争いのない事実によれば、控訴人の主張する抗弁が認められない限り、被控訴人らは、請求原因2(二)及び3の各連帯保証契約により、訴外会社の連帯保証人である控訴人に対して次の各債権を有していることが認められる(被控訴人らが本件更生手続において請求原因4(六)のとおり、弁済期徒過後に発生したという利息債権を届け出、結局確定のうえその旨更生債権者表若しくは更生担保権者表に記載されたことは当事者間に争いがないが、右記載について生ずる確定判決と同一の効力(会社更生法第一四五条)は、同条所定の者についてのみ生ずるのであり、訴外会社の連帯保証人である控訴人には及ばない。)。

一基本債権

1  被控訴公団

計金六一一万四、三〇〇円

(一) 元本(更生債権)

金四九六万五、一七〇円

(二) 利息(同)

金三万九、九八五円

(三) 遅延損害金(同)

金一一〇万九、一四五円

(昭和三九年八月二四日までに発生したもの)

右各債権は、いずれも昭和三九年八月二五日届出があり、更生債権となつたもので、本件貸金元本、利息及び遅延損害金の各残額(現存額)である。更生債権のうち免除されなかつたものは、更生計画認可の日から六〇日後に全額弁済を受けているので、右各債権は免除されたものである。

2  被控訴銀行

金一〇三万九、七六六円

本件求償債権(更生担保権)

金一〇三万九、七六六円

右債権は、昭和三九年八月二五日届出があり、更生担保権となつたもので、本件求償債権の残額(現存額)である。本件求償債権のうち免除されなかつたものは、全額弁済を受けているので、右債権は免除されたものである。

二附帯請求

1  被控訴公団

(一) 原判決添付の弁済計画表Aの第七回分までが弁済された時点以後の更生担保権の残額に対する遅延損害金

右第七回分までが弁済された時点における更生担保権の残額金一二六万〇、四九三円に対する代位弁済日の翌日である昭和三九年八月二一日から右計画表Aの第八回分が弁済されるまでの、右第八回分が弁済された後の残額金六一万九、八八三円に対する右弁済日の翌日である昭和四八年一二月二五日から右残額(右計画表Aの第九回分)が弁済されるまでの、各日歩金四銭の割合による約定遅延損害金

(二) 前記残元本及び利息に対する遅延損害金

残元本金四九六万五、一七〇円(前記一1(一))及び利息金三万九、九八五円(前記一1(二))に対する代位弁済日の翌日である昭和三九年八月二一日から完済に至るまでの日歩金四銭の割合による約定遅延損害金

2  被控訴銀行

本件求償債権に対する遅延損害金

本件求償債権金二三八万五、八五八円(原判決添付の弁済計画表Bの第七回分までの弁済がすべて別口の手形貸付債権に充当されていることは当事者間に争いがない。)に対する代位弁済日の翌日である昭和三九年八月二一日から右計画表Bの第八回分(第八回分の弁済金七六万一、八七〇円のうち、本件求償債権に充当される金額は金六八万四、二二八円である。その詳細は、原判決添付の計算書7(三)(3)のとおりである。)が弁済されるまでの、右第八回分が弁済された後の残額金一七〇万一、六三〇円に対する右弁済日の翌日である昭和四八年一二月二五日から右計画表Bの第九回分(第九回分の弁済金七三万六、九六九円のうち、本件求償債権に充当される金額は金六六万一、八六四円である。その詳細は、原判決添付の計算書7(三)(3)のとおりである。)が弁済されるまでの、右第九回分が弁済された後の残額金一〇三万九、七六六円に対する右弁済日の翌日である昭和四九年一二月二五日から完済に至るまでの、各日歩金四銭の割合による約定遅延損害金

第二抗弁の判断

一免除について

控訴人は、被控訴公団が控訴人の同公団に対する保証債務を免除したと主張するけれども、これにそうかにみえる原審における控訴本人の供述は、原審証人越智敏也、松本友治、川原田稲雄、小田純一郎の各証言に照らし信用することができず、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はなく、右抗弁は採用できない。

二更生計画における免除について

控訴人は、本件債権のうち更生計画において免除されたものについては、訴外会社の連帯保証人である控訴人も免除の限度で支払義務を免れると主張するけれども、更生計画による権利の変更が更生債権者若しくは更生担保権者の会社の保証人に対して有する権利に影響を及ぼさないものであることは、会社更生法第二四〇条第二項の明定するところであり、右抗弁は法律上理由がない。

三消滅時効について

1  基本債権について

(一) 控訴人は、被控訴人らの本訴提起が昭和三八年一二月一〇日の弁済期から五年を経過した後であるから、本件基本債権は時効期間の経過によつて消滅したと主張する。

しかしながら、被控訴人らが訴外会社に対して有していた本件基本債権は、いずれも更生担保権として(被控訴公団は予備的に更生債権としても)届け出られて受理された債権であり、この届出は、会社更生法第五条にいう手続参加にほかならないから、届出のあつた昭和三九年八月二五日に時効の中断があり、消滅時効は、右中断事由が終了する時、すなわち、当該債権が更生手続の拘束から解放される時まで進行を開始しないものと解するのが相当である。

そして、債権の届出(手続参加)による時効中断の効力は、保証人にも及ぶものであるから(民法第四五七条第一項)、控訴人に対する関係でも消滅時効は中断されたことになり、右主張は採用することができない。

(二) また、控訴人は、更生計画によつて免除された債権については、遡つて届出がなかつたことになるものと解すべきであるから、手続参加による時効中断はなかつたことになると主張する。

しかしながら、更生計画による免除にそのような遡及効はないのであつて、適法な届出によつて生じた時効中断の効果は、届出の取下げ若しくは却下のない限り、更生計画による債務の免除があつたという一事をもつて失われるものではなく、右主張も採用することができない。

(三) 控訴人は、更生計画によつて免除された債権については、その更生計画認可決定の日に時効の中断事由が終了するものと解すべきであると主張するけれども、更生計画によつて免除された債権が更生手続の拘束から解放される時、すなわち、時効の中断事由が終了する時とは、その免除を定めた更生計画の認可決定が確定した時を指すものと解するのが相当である。

会社更生法第二三六条は、「更生計画は、認可の決定の時から、効力を生ずる。」と規定し、同法第二四二条第一項は、「更生計画認可の決定があつたときは、更生債権者、更生担保権者及び株主の権利は、計画の定に従い変更される。」と規定しており、更生計画に条件付きでない単純な免除の定めがある場合には、右債務免除の効力が更生計画認可決定の時に生ずることはいうまでもない。

しかしながら、更生計画認可決定に対しては即時抗告をすることができ(同法第二三七条第一項)、右即時抗告が認容されて更生計画認可決定が取り消されると、更生計画は遡及的に効力を失うことになり、更生計画により免除された債権は復活することになるのである。

すなわち、更生計画認可決定の時に直ちに債務免除の効力は生ずるけれども、右免除された債権の運命は、即時抗告による取消しの可能性を有するという意味において未だ浮動状態にあり、免除された債権が更生計画認可決定の時に直ちに更生手続の拘束から解放されるものと評価することはできないのである。即時抗告期間の徒過、又は抗告却下若しくは棄却の決定の確定により、更生計画認可決定が確定した時に債務免除の効力は確定的となり、免除された債権は、更生手続の拘束から初めて解放されることになるものと解するのが相当である。他方、更生計画認可決定が確定しただけでは更生手続は未だ終了していないけれども、右確定時以後は免除された債権はもはや更生手続に参加していないのであるから、免除されていない債権と同一に論ずることもできない。

したがつて、更生計画により免除された債権が更生手続の拘束から解放される時、すなわち、右債権について時効の中断事由が終了する時とは、更生計画認可決定が確定した時と解するのが相当である。

(四) してみると、被控訴人らが控訴人に対して有する本件基本債権について中断していた時効は、本件更生計画認可決定が確定した時から、更に進行を始めるものと解するのが相当である。

(五) そして、本件基本債権は、いずれも更生計画により免除されたものであるから、商事債権として五年の消滅時効にかかるものと解されるところ、本件更生計画認可決定が確定したのが昭和四一年一二月二〇日であることは当事者間に争いがなく、本訴がこの時から五年を経過する前の昭和四六年一一月二五日に提起されていることは本件訴訟記録上明らかであるから、本件基本債権についての控訴人の消滅時効の抗弁は、理由がないものといわなければならない。

2  附帯請求について

本件附帯請求の訴訟物である遅延損害金債権は、本件基本債権の従たる地位にはあるけれども、被控訴公団及び被控訴銀行と訴外会社との間の各遅延賠償契約(商行為である。)によつて発生した権利であり、本件基本債権とは別個独立の債権として考慮せざるをえない。そして、右遅延損害金債権が更生債権者表又は更生担保権者表に記載されていないことは、原本及び成立に争いのない甲第一二号証の一、二、第一三、第一四号証の各一ないし三により明らかである。

したがつて、右遅延損害金債権については、商事債権としての五年の消滅時効にかかるものと解するのが相当である。

してみると、昭和四一年一一月二六日以後に発生した遅延損害金債権は、前記認定の昭和四六年一一月二五日の本訴提起によつて中断されたことになり、被控訴人らが求めている昭和四一年一一月二六日からの本件附帯請求についても、控訴人の消滅時効の抗弁は採用することができない。

四弁済について

控訴人は、同人が昭和四二年二月末ころ訴外会社の更生管財人三木善吉を使者として、被控訴銀行に対し金二〇〇万円を弁済したと主張するけれども、これにそう当審における控訴本人の供述は、当審証人三木善吉の証言に照らし信用することができず、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はなく、右抗弁は採用することができない。

五共同保証人間の負担部分による減額について

控訴人は、訴外会社の保証債務のうちの二割相当額については被控訴銀行と控訴人とが共同して保証していたものであり、両者の負担部分は平等と考えられるので、同銀行は、その代位弁済額のうち二分の一に相当する部分のみを控訴人に対して求償できるにすぎないと主張する。

しかしながら、被控訴銀行と控訴人とが昭和三八年三月二二日被控訴銀行が請求原因1の代理業務契約により被控訴公団に対して負担する債務(貸付金に対する二割の保証責任)について代位弁済した場合の求償債務について控訴人が連帯保証契約(請求原因3)を締結したことは当事者間に争いがなく、被控訴銀行が控訴人に対して連帯保証の履行を求めているのは、まさに右連帯保証契約に基づくのである。右連帯保証債務と、控訴人が被控訴公団に対して負担している連帯保証債務(請求原因2(二))とは、その目的、態様及び当事者関係において全く別個のものであり、控訴人の右抗弁も採用することができない。

第三結論

以上により、第一で判示した現存債権の各一部を請求原因5記載のとおり請求する被控訴人らの本訴請求は、全部理由があるからこれを認容すべく、これと同旨の原判決は相当であるから本件控訴を棄却し(ただし、原判決主文第一項は、請求の減縮により主文第三項のとおり変更されている。)、控訴費用の負担について民訴法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(中池利男 鍬守正一 原田和徳)

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